2020年9月 新刊書籍『雨に呼ぶ声』のご案内

内容紹介

カフカなど海外文学の影響を受けて、夢と現実、常識と非常識、正気と狂気、さらには生と死の境界を超越して人の世の不確実性を描き、そのあたらしさと実験性をもって、中国文壇で「先鋒派」と呼ばれた余華。ノーベル文学賞の候補として常にその名が挙げられる余華の、先鋒派時代の最後を締めくくる作品にして、はじめての長篇。ファンのあいだで長く邦訳が待たれていた幻の名作。

(物語の概要)1960〜70年代の中国。主人公の幼児期から青年期までの記憶を辿る物語。

主人公 孫光林スン・グアンリン は南門ナンメンという貧しい村に三人兄弟の次男として生まれ、六歳で、町に住む子どものいない夫婦のもとへ養子に出される。幼少期を町で過ごし、十二歳のとき、養父の死によってふたたび村に戻ってくるが、この間の不在が、彼を実家の家族から孤立させてしまう。そのため、主人公は、思春期を孤独で内省的な少年として過ごし、成長していくことになる。

(帯:推薦文より)善人がひとりも出てこないのに、しみじみ泣けるのはなぜだろう。残酷なのにあたたかい。余華の語りは名人芸だ。(by作家 中島京子)

(翻訳者の解説より)キーワードは「回想」「虚構」「記憶」「過去」だろうか。虚構の人物に作者の魂が乗り移り、時間と空間を超越したところに不思議なリアリティーが生まれた。それが読者の心に響くから、この長篇第一作に支持が集まるのだろう。(by 飯塚 容)

(中国国内の論評より) すぐれた「心の自伝」である『雨に呼ぶ声』は、虚心坦懐に幼年時代の怪しい行動と心の秘密をすべて記述している。これは、とても正直な人生の告白である。初めての戦慄、拙劣な欲望、身の置きどころを失った少年、奇妙な幻想、拒絶できない恐怖、理由のない罪悪感……狂乱に満ちた少年の心理が余すところなく描かれている(by陳 暁明)

目次抜粋

〈目次〉

第一章

南門/婚礼/死/出生

第二章

友情/戦慄/蘇宇の死/年下の友人

第三章

 はるか昔/残り少ない命/消失/父を打ち負かした祖父

第四章

威嚇/放棄/無実の罪/南門に帰る

『雨に呼ふ声』日本語版刊行によせて……余 華

解説……飯塚 容

著者紹介

余 華(ユイ・ホア/よか)

1960 年中国浙江省杭州生まれ。80 年代中頃から実験的手法による「先鋒派」作家の一人として注目を浴び、中短篇集をいくつか発表したのち、91 年、本作『雨に呼ぶ声』で長篇デビュー。92 年発表の『活きる』が張芸謀( チャン・イー モウ) 監督により映画化され話題を呼ぶ。著書に『血を売る男』『死者たちの七日間』『ほんとうの中国の話をしよう』(以上、河出書房新社)『兄弟(上・下)』(文藝春秋)などがある。

翻訳者紹介

飯塚 容(いづか・ゆとり)

1954年生まれ。中央大学文学部教授。専門は中国近現代文学および演劇。訳書に、高行健『霊山』『ある男の聖書』『母』(いずれも集英社)、余華『活きる』(角川書店)『血を売る男』『ほんとうの中国の話をしよう』『死者たちの七日間』(いずれも河出書房新社)『世事は煙の如し 中短篇傑作選』(岩波書店)、鉄凝『大浴女』(中央公論新社)、蘇童『河・岸』(白水社)、閻連科『父を想う』(河出書房新社)、畢飛宇『ブラインド・マッサージ』(白水社)など多数。2011年に中華図書特殊貢献賞を受賞。