2021年6月 新刊書籍『兄弟』のご案内

内容紹介

したたかで たくましく、一途で愛おしく、下品で猥雑な 極上の物語
ノーベル文学賞候補・余華
世界を騒然とさせた傑作、待望の復刊!

カフカなど海外文学の影響を受けて、夢と現実・常識と非常識・正気と狂気、さらに生と死の境界も超越して人の世の不確実性を描き、そのあたらしさと実験性をもって、「先鋒派」と呼ばれた余華。本作は中国文壇の重鎮・余華の長篇代表作です。中国では2005年に上巻、2006年に下巻が刊行されたちまち話題沸騰、その後各国に紹介され世界的なベストセラーとなりました。日本では泉京鹿訳で2008年単行本(上下巻)、2010年に文庫本(上下巻)が文藝春秋より刊行され、以来、残念ながら入手困難となっておりました。「現代中国を知るための必読書」「最高のエンターテインメント小説」として、ファンや書店員の中で伝説になっていた本書を、このたび、上下巻一冊にまとめて完全復刊します。解説は小説家の篠田節子氏。

【物語の概要】

父親を亡くした李光頭(リー・グアントウ)と母親を亡くした宋鋼(ソン・ガン)が、片親同士の再婚によって義理の兄弟となったあと、それぞれの人生をどう歩んだかを描く物語。文革篇は兄弟の少年時代。地主出身という理由で父親は身柄を拘束され、母親は病気で入院し、わずか8〜9歳だった兄弟は、飢えに苦しみながらも助け合って生き延びる。開放経済篇は、ふたりの兄弟の青年期。李光頭は、党の福祉工場をスタートに、したたかにたくましく廃品回収業で大儲けして起業家となる。一方、一途で実直な宋鋼は、兄弟ふたりの憧れの女性だった林紅(リン・ホン)の心を射止め、幸福な結婚をしたかに見えたが、時流に乗ることができず、悲惨な末路をたどる。

階級闘争の嵐が吹き荒れた文革時代と、拝金主義が横行する現代を、ともに狂乱の時代として描ききる大作。プリミティブな欲望・恋愛・親子の情・血の繋がらない兄弟の強い絆・悲惨な民衆による暴力・溢れかえるユーモア・下品だが率直で猥雑なエネルギー、すべてがてんこ盛り。ジェットコースターのような疾走感に身を委ね、物語の愉しみを堪能できる、比類なき作品。

出版社から

【余華によるあとがきより
これは二つの時代が出会って生まれた小説である。前者は文革中の物語で、狂気じみた、本能が抑圧された痛ましい運命の時代。ヨーロッパにおける中世にあたる話である。後者は現在の物語で、倫理が覆され、こんにちのヨーロッパよりもはるかに極端な欲望のままに浮ついた、生きとし生けるものたちの時代の話である。西洋人が四百年かけて経験してきた天と地ほどの差のある二つの時代を、中国人はたった四十年で経験してしまった。四百年間の動揺と変化が四十年の中に濃縮された、非常に貴重な経験である。この二つの時代を結ぶ紐帯はふたりの兄弟である。

【解説より (小説家 篠田節子)】
余華は予定調和をひっくり返していく。読者が泣けると期待した場面で怒らせ、笑った次の瞬間に慄然とさせ、下劣さに眉をひそめるエピソードの結末で感動の涙を流させる――。
『兄弟』は、並の作家なら、「国家と社会に翻弄されつつ、なおかつ失わぬ家族愛と絆」という浪花節にまとめるところを、竜巻のように上昇し暴走するストーリーと過剰な文章表現と登場人物の性格設定によって、土俗神話的な壮大な世界を作り上げた。一見通俗的な物語の底から、時代や体制を超えた人間の不変的で普遍的な真実を浮かび上がらせた傑作と言える。

著者紹介

余 華(Yu Hua/ユイ・ホア)

1960年中国浙江省杭州生まれ。両親の職場の病院内で、人の死を身近に感じながら育つ。幼少期に文化大革命を経験。89年には文学創作を学んでいた北京で天安門事件に遭遇した。80年代中頃から実験的手法による中短篇作品で「先鋒派」作家の一人として注目を浴び、91年『雨に呼ぶ声』(アストラハウス)で長篇デビュー。92年発表の『活きる』(中央公論新社)が張芸謀(チャン・イーモウ)監督により映画化されて話題を呼ぶ。本作『兄弟』は中国で05年に上巻、06年に下巻が発表され、またたくまにベストセラーとなった。他の長篇作品に95年『血を売る男』、13年『死者たちの七日間』(いずれも河出書房新社)、21年『文城』(未邦訳)がある。グランザネ・カブール賞(イタリア)、フランス芸術文化勲章「シュヴァリエ」受賞。作品は全世界で2000万部以上、40以上の言語に翻訳されており、ノーベル賞関係者が中国で必ず面会する作家のひとり。

翻訳者紹介

泉 京鹿(いずみ・きょうか)

1971年東京都生まれ。フェリス女学院大学文学部卒。北京大学留学、博報堂北京事務所勤務を経てライター、メディアコーディネーター、翻訳者として16年間北京で暮らす。現在はアメリカ・ロサンゼルス在住。訳書に王躍文『紫禁城の月 上・下』(共訳、メディア総合研究所)、閻連科『炸裂志』(河出書房新社)、九把刀『あの頃、君を追いかけた』(共訳、講談社)、林奕含『房思琪の初恋の楽園』(白水社)など多数。