書籍
クリスティーヌ
クリスティーヌ・アンゴ 著 / 西村亜子 訳
定価(税込) 2,200円(本体2,000円+税)
ISBN978-4-908184-49-9
2024年1月26日発売
内容紹介
フランス2021年 メディシス賞受賞、ゴングール賞ノミネート作品
実父による近親姦に苦しみ続けた少女は、どのように1人の女性として自己確立していったのか、その人生を描いた物語。
本書は、フランスの作家、劇作家で脚本家でもあるクリスティーヌ・アンゴの二十四作目の小説『Le Voyage dans l’Est』2021年刊の全訳である。
物語は十三歳になったクリスティーヌが初めて実の父親に会う日から始まる。憧れの父親にようやく娘として認知され、これからは普通の親子としての生活が始まると有頂天になるが、現実は想像とは全く別のものだった。自分の身に何が起きているのかを伝え、救い出してほしい気持ちとは裏腹に、母親にすら話すことができない。そして誰にも打ち明けられないまま、少女時代は過ぎていった……。
著者が綴るのは、クリスティーヌが苦しみ、トラウマを抱えて人生に絶望しながらも、どのように一人の女性として自己確立をしていったのか、その命がけの人生そのものである。
著者のアンゴも実父による近親姦からのサバイバーであり、デビュー作から一貫して女性に対する性的虐待をテーマに書き続けてきた。ただ、作中の「クリスティーヌ・アンゴ」は作者自身ではなく、本書はアンゴの自伝ではない。しかし、彼女の作風はあまりにも実体験と近接しており、作者と語り手を分離しにくいかもしれない。一つだけ強調しておきたいのは、アンゴにとって「近親姦の被害者」という「立場」と「実体験」は文学作品を生み出すための出発点に過ぎないということだ。
サバイバーのアンゴは「文学作品を書くこと」という手段で戦う。戦う相手は家族関係を破壊し、隷属の関係を強要する性的虐待者だけではない。それを見ないふりをし、セカンドレイプをする「社会」全体である。
著者紹介
クリスティーヌ・アンゴ
作家、劇作家、脚本家。認知前の姓はSCHWARTZ(1959年2月19日フランス・シャトールー生まれ)。1990年に『Vu du ciel 空から見下ろして』(日本未訳)でデビュー。自らの体験に基づく実父との近親姦を主題にした『L’ Inceste 近親姦』(1999年日本未訳)が反響を呼ぶ。以後、発表する作品は2005年にフランス・キュルチュール賞、2006年にフロール賞、2015年にデッサンブル賞そして2021年にフランス5大文学賞の一つであるメディシス賞を受賞し、アンゴは現代フランス文学を代表する一人となった。なお2013年にフランス政府から芸術文化勲章のオフィシエを受勲し、2023年2月からはゴンクール文学協会(通称アカデミー・ゴンクール)会員に選出されている。
翻訳者紹介
西村亜子
フランス文学翻訳家。慶應義塾大学修士課程及びパリ第三大学FLE修士課程修了。やさしいフランス語にリライトした『80日間世界一周』、『オペラ座の怪人』、『フランス語で楽しむ日本昔ばなし』シリーズ(いずれもIBCパブリッシング)の他、『ひとりで学べるフランス語会話』(高橋書店)、『謎が解けるフランス語文法』(共訳)などフランス語教育にも携わっている。